俺のウエスタン人生バナー

 ウエスタンBライン

VOL.4

 煙がスーっと消えたその時、眼に飛び込んだその光景とは…。ウエスタンサドル カット
「何だ、ありゃ」
出迎えた人達に、挨拶したかしないうちに走り出していた。馬つなぎの上に、無造作に乗せてあるのは、ウエスタンサドルではないか。西部劇でしか見たことのなかったサドルが、今、俺の目の前に置いてある。何てこった、胸に熱いものが駆け巡っている。

 これは偶然におかれたものか?はたまた演出なのか?日本ではお目にかかれないと思っていたのがそこにあるではないか、持っている人がいるなんて信じられない、俺はその場所を動こうとはしなかった。
 下がっては見て、近寄って手に触れ、前後左右あらゆる角度から眺めたっけ。そんなしぐさを何処で見ていたのだろうか、ハットの彼が近づいて来て、「今、馬に着けてやるから、写真でも写しなよ」モノクロ ロディー

 俺は天にも昇った気持ちだったね。今でも、あの時の写真を見ると、ニヤニヤして何処か締まりのない顔をして写っているよ。駄目なんだよ俺って、ポーカーフェイスが出来ないから心を読まれちゃう。
 あの時ウエスタンサドルを見ることがなかったら、俺はウエスタンに乗り遅れただろうし、あっちこっちの乗馬クラブを、ただ流れ歩いていたのに違いない。これが決定打となって、他の乗馬クラブへ行く必要がなくなった。今までは、二ヶ月に一度くらいが二度に、最後には週に一度となって通う回数も増していったのだ。

 の頃は、国鉄大宮操作場という貨物駅に勤め、入れ替え作業の仕事をしていた。この操作場は、国鉄五大操(新鶴見操、大宮操、吹田操、稲沢操、田端操)の中の一つで、縦の長さが、4キロ以上あり、一日3000両〜5000両もの貨車が出入りしていた。上下線合わせて100本あまりの線路があり、下り線だけでも60本の線路を抱えていた。

 箇所の詰所に分かれ、俺が所属していたのは、西部運転という詰所で、職員150名、交代制で、昼の部と夜の部に分かれ、各部が25名、3チーム、3台の機関車で列車組成をやっていた。この仕事がカウボーイの仕事と似ているのだ。所属からして西部だ。(実際は、さいぶと読む)

機関車は馬、「アイアンホース」
機関車の先頭に乗って誘導する人は操車係、連結する人は構内作業係、これは「カウボーイ」
貨車はさしずめ牛だ、黒は「アンガス種」 茶色は「ヘレホード種」

 仕事の内容はこうだ。各方面から到着した列車(貨車)は、一度ハンプという小高い丘に引き上げられて、新たな方面(北海道、東北、上越、信越)に分散される。

各線路に散展され連結していく 「ラウンドアップ」
さらにそれを、駅別順に仕分けする 「カッティング」
仕分けして、留置する線路を群線という 「コラール」

 仕分けする際に、突放という作業がある。操車係(カウボーイのボス)が機関車(運転士)に対して、後ろに下がれと合図を送ると機関車(貨車)が動き出す。動き出したら、構内作業係(しんがりのカウボーイ)が連結器を切り放しておく。

 段々とスピードがついてきたら、停止の合図をする。貨車は、連結器を離れ、単独に転がり出すが、スピードがあるので、そのまま停止してある貨車に連結すると、激突してしまうから、構内作業係(カウボーイ)が飛び乗り、サイドブレーキを扱ってコントロールしながら連結する。散転された貨車を駅順に並べたら、列車組成完了。
発車線に据えつけ、時間がくれば出発だ「キャトルドライブ」

 しかし、時には、脱線する事もあるし、命を落とすこともあるのだ。「スタンピード」
現に詰所でも、殉職1名、片足切断2名、指を潰したもの1名を出している。他に部外者が侵入して命を落とす事もある(自殺者)4名程いたね。自分自身も、あと数秒遅れていたらこの世にはいなかった。思い出してもゾォーとするよ。

 なわけで、頭の中はいつもカウボーイで一杯なのだ、だから偉くなろうとは考えなかったし、なっていたらカウボーイなんかできっこない、偉くなるよりカウボーイになりたかった。

 の話に戻そう。ある朝、クラブに着いたら、ハットの彼が見当たらない、どうしたのだろうと思って尋ねようとした時に、遠くから蹄の音が近づいてくるではないか?

「ナヌッ」 音がする方向へ目を向けていると、林道の木の陰から、突如と現れた馬上の男、ハットの彼だ。
「もう外乗にでも行ってきたのですか」
「いャこの先に家を借りて、そこから通っているんだ。今度遊びに来なよ」

 だァァァ参ったね、格好良すぎるよ、俺が思っている事、やりたい事をみんなやってしまう。しかし、彼は自分だけ良い思いはしなかった、俺のウエスタンに賭ける熱意はわかっているから、喜ばすことは心得ている。
「何処に借りたんですか」
「此処にくる途中、踏切を渡って行くと、左手に松林がある、その林を過ぎて、すぐ左手に白樺の木がある家が見える、そこなんだ」
「あるある、それじゃ駅から歩きでも来られるね。早速、寄らしてもらいます」

 れからは、乗馬クラブよりも、ハットの彼の所に行くのが多くなってくるのは当然の事となる。ちょくちょく遊びに行くようになってたある日の事、丁度彼も休みで、天気もいいし、表でコーヒーを飲みながら、色々話込んでいる時に、
「君は、こうして頻繁に通って来るのだったら、ここを自分の牧場と思って好きな様にやったらいい、まず牧場の名前でも考えたらどうかね」
「えッ!!この俺が牧場の名前を付けてもいいの?」
「そうだよ、今こうしている時だって、道路を行き来している人達がいるだろう、ゲートに牧場名を下げて、道行く人が立ち止まって見ている様だったら、こちらからコーヒーでも飲んでいきませんか?とか言って誘うのさ、飲みながら話をして覚えてもらうんだよ、十人中一人位は覚えて帰るだろう、そうしたら口込みで伝わると思うよ、君みたいに一人ぽっちでウエスタンをやってる奴って結構いるんじゃないかなァ。
仲間が増えるよ、きっと」
「う〜ん、そうかも知れないね、あれだけ西部劇がブームを呼んだのだから、そういう奴がいたって不思議じゃないね、よし!わかった、俺、考えるよ」

 あ大変、その日から寝ては夢、起きてはうつつの幻じゃないが、惚れた女に恋焦がれたように、四六時中、頭の中はその事で一杯、映画のプログラムを引っ張り出して、牧場名を探した。チザムキング、ララミー、テキサス、OK牧場? ありふれていて面白くもない、あまり映画にこだわらずに考えよう。語呂が良ければ覚え易い。そして、誰もが考えつかないものは何だ。

 そうした或る夜、深夜放送で、カントリー&ウエスタンをやっていたので、聞いていると、カウボーイの話の中、キャトルドライブの事を説明しているではないか、すると、聞き慣れたジーンズの銘柄が出てきた。その意味は、キャトルドライブ中に、列から逃げ出した迷い牛の事らしい。牛 カット

 「普通、趣味といえば、釣り、スキー、登山、余裕のある人はゴルフに狩猟、これが通常の趣味とするならば、通常の道から、ウエスタンははみ出している。また、その趣味によって、それぞれあった服装がある。自分の趣味は、日本に例えれば時代劇の姿、一般の趣味と比べれば、通常の列からはみ出している。逃げ出した迷い牛を、はみ出した迷い牛と変えれば“列からはみ出した迷い牛”これに牧場の“ランチ”を加えれば、“列からはみ出した迷い牛ランチ”となる。これだァ 語呂もいい、これに決定!!」

                                    VOL.5へつづく


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