第四部
VOL.16
(No.2) オクラホマ州
今アメリカ本土上空、サンノゼ空港を飛び立った頃は晴れてはいたが、次第に太陽の光は雨雲にさえぎられてきた。飛行機は徐々に高度を下げ着陸、キュキューンと滑走路に触れる音、テキサス・ダラス空港、広いまったく広い。座席からTOKIの位置を確認、子供が親を捜してるようだ。やはりテキサス、サンノゼ空港では見当たらなかったカウボーイハットがあちこちにいる、アメリカだ。
ゲートに向かう。
「よし、今度聞かれたらSightseeingと言ってやる」
と身構えていたらチケットを渡してすんなり通過、税関は一度通ればいいのか。
レンタカーを借りるところまでなんだかアッチャこっちゃ回った気がする。またこのレンタカーが凄い、ドアを開けるとシートベルトが窓枠と繋がっていてドアを閉めると体にぴったり装着できるように出来ている、さすが車の国だ。
いよいよ大地を走る、空は鉛色、雨は降ってはいない
「俺は今アメリカを走っている」
思いこめば思うほど実感が沸いては来ない。ただ自分が巨大な生物に飲み込まれていくようだ。空港からどんどん離れて行くに連れて草原が広がっていく。ようやく実感が沸いて来はじめたのがフリーウエイの広さだ、日本の高速道路の上下線が片側でおまけに中央に緑地帯まであるのだ。その道路が地平線まで延びている、大陸という言葉あてはまるはずだ。所々に家もあるが緑が多いのには驚いた。
映画「Red
River」の中、牛を育てるのにテキサスを選んでいる、映画もまんざら嘘ではないのか。そのRed
Riverを越えたのである。(テキサス州とオクラホマ州の州境)帰りもここを通るということなので通過する。オクラホマ州に突入だ。まだ地平線には届かない、届く訳がない。行き交う車もライトが点灯し始めてすっかり暗くなってきた。
オクラホマ州アードモアという街がアメリカ最初の晩だ。闇夜を走って来たせいか妙に明るい気がしている。宿泊は2階建てのモーテル、チェックインを終え2階に上る、日本の長屋だな。部屋はTOKIの隣、キーを受け取り部屋に入って驚いた、ベッドの大きい事、どんなに寝相が悪い奴でも落ちる事はないだろう。荷物を中に放り込んでレストランへ、日本の食堂であるならば
「お銚子2本熱燗で」
ところがメニューを差し出されても「?」TOKIが注文するのを待って同じ物を指差す、上手いかまずいかは言ってられる身分ではない、1週間の我慢だ。とにかく食べて明日の行動を打ち合わせて部屋へと分かれた。
興奮してるせいか、なかなか眠る事が出来ずに夜明けを迎えたのである。身支度を整えレストランで朝食してから、いったん部屋に戻りRope、拍車の入った荷物を持って車に乗り込む。昨日は夜だったので周りの景色などわからなかったが、モーテルは通りに面して、右手にフリーウエイの立体交差が見える。街はこじんまりした田舎、ビルらしき建物など見当たらない。
太陽の光がまぶしい、さぁ目的に向かって出発だ。20分位テキサス方面に戻り一般道路に入る。牧場が続く壊れかけたアスファルトは1本道、木々も多い、幹が太く丈は短いが、枝が横に広がり覆い被さっている。すれ違う車はなく、時々見かけるアルマジロの死骸、本物を見るのは初めてである。十字路に差しかかった所に看板がある。右折すると"Bob
Loomis
Ranch"。そこからゲートまで数分、車から降りてビデオを撮っていたら1台の車が止まった。1人の男が近寄ってきた。
「Oh!! TOKI」
男同士ががっちり握手、知り合いの装蹄師だそうだ。なにやらお喋りしたかとおもったら装蹄師の車はランチの中に走り去った。ゲートから直進する道と右に迂回する道に分かれるが、我々は右に進んだ。トレーラー脇に止める、日本の庭に当たるのかなァ、庭というより広場だ。
初めてのアメリカで紹介されたアメリカ人は、レーニング界の神様と言われているそうです、ボブ・ルーミス氏。でもピンと来ない、(ロイ・クーパー、リオ・キャメリロの名前なら俺は知っている、でも向こうは俺を知らないけれど)。背丈は我々と変わらない角張った顔に顎の筋肉が盛り上がっている。TOKIが紹介してくれた。
「日本人でRoperになりたいと言っている男、Rowdyだ」
「Nice to meet you」
出来た、英語で挨拶が。TOKIとなにやら話が終わるや否や、ルーミス氏は我々の車に乗りこんでいるではないか、さっそくRoperを紹介してくれるとの事、ランチ内の見学は後日。
「TOKIにRoperを捜してくれと頼んでおいたが、こんな一流の人が捜してくれたんだ」
丘陵地帯の道を進んで行く、途中、数日前に洪水があって川が氾濫し、その爪あとだと説明してくれた。
しばらく走ったがRopingが出来る場所は見当たらない。丘を幾つもアップダウンしていく中、前方の左側になにやら見えて来たのが馬房だ。入り口にはゲートはなく奥にフェンスが張り巡らされていた。門は開かれていてそのまま場内に進んで行くと、ラウンドペンの傍らで男の人、ラウンドペンの中には女の人が馬を調教しているみたいに見える。左側には入ってくる時に見えた馬房、左手の奥には馬場がある。
車の音に気がついたのか男の方がこちらに近づいて来た。年格好なら50は越えているだろう、頭髪がちょっぴり薄く口髭を生やしている。ルーミス氏と其の人が英語で朝の挨拶でもしたのかな、話が終わると我々を紹介してくれた。
"Jack Holden"
「Nice to meet you」
もうスラスラさァ。
この人が俺の先生なのか、紹介が終わると何の予告も無しにルーミス氏は"TOKI"と呼ぶなり私を置いてきぼりしてさっさと車に乗り込み帰って行くではないか。
「おい本当かよ、それはないぜ、そりゃ約束はしたよ、現地に着いたら別行動、でも今日でなくても」
憮然としている俺に、
「Ropeは持ってきたのか」
多分そんなことを言っているのではないかと判断、日本を発つ時には、Calf(Roping注)なのかTeam(Roping注)なのかわからなかったから、Calf用の柔らかいRopeを見せたら、
「これは持って帰りなさい、私のを貸してあげるから」
一緒に来いと手招きをして馬房に向かって歩き出した。こうなったら仕方がない、誰も守ってくれないのならと覚悟決めて、暗記してきた英語で、
「Please call me Rowdy as It is
My nickname 、and I don't understand English at all
So speak slowly with gesture Please」
果たして俺の英語は通じたのか?いったいこれから俺はどうなるんだろう。
VOL.17へつづく