
第二部 VOL.10 (No.3) 投げ縄「カウボーイかい?」
「そうだよ。でも牛を追った事ないけど」(映画”アーバンカウボーイ”より)
我々がアーバンカウボーイをしていた頃に、日本で只一人、本物(実際に職業としていた)をしていた男、自らを「ライジングスター」と名乗っていた男がいる。彼との出逢いは、ある場所でウエスタンショーをやった時である。赤シャツの牧場の現役の牧童だった彼は、投げ縄を得意とし、我々と共にショーに出ていたのだ。
彼を紹介したのがやはり赤シャツだった。俺もRopingに興味を持ってはいたが、人前でやれるまでには到っていない。
「ああ、投げ縄もやる人がいるんだなァ」
と思ったぐらいで、その時は別に気にもしていなかった。
ただ、皆と行った北海道の牧場が忘れられず、常々もう一度行きたいと願っていたら、赤シャツが、あらためて紹介してくれたので、訪れる事が出来たのだ。
そこは、観光牧場ではないから、ふら〜っと行って遊べるのではなく、本格的に肉牛を育てて、肉の加工品等を生産販売している牧場だ。この頃から、俺も本格的にRopingをやろうと思っていた時期でもある。で、「ライジングスター」を思い出した訳だ。
赤シャツに連絡してもらったが、赤シャツの紹介であるから彼も断れなかったのだろう。
「どうせ都会のウエスタン、ギンギラギンなのだろう、軽くあしらってやればいい」
と(後に本人に聞いた)考えていたらしく、こっちとしても
「ちったァ知られた、ロディ様だ」
という気持ちはあったが、敵は本物、ここは低姿勢で行こうと思い、話のキッカケを何にしようと作戦を練ったのである。
「よし、カウボーイならばロープだ。ロープを教えてください。」
と切り出せばいいのだ。さあ、いよいよ敵陣に乗り込む時が来た。函館空港に降り立ち、バスに乗り換え、牧場のゲートをくぐり抜け事務所のドアを叩く。事務員が出てきた。
「私は、赤シャツの紹介で来ました、ロディと申します。お世話になります」
挨拶してから室内に通され、ソファに座って事務員と話していたら、彼が仕事から戻ってきたのだ。年季の入ったハットにチャップス、何処から見ても本物だ。俺は立ちあがり、
「初めてではないのです、前にお目にかかっていますが、わからないでしょう」
「あ、そッ」
こんな感じだった。
「なるほど、軽くあしらわれているな」
ここはグッと堪え忍んで、ヨイショしなくてはいけないので作戦に出た。
「東京のウエスタンショーで、投げ縄をやりましたよね。ここに来たのも、投げ縄を教えて貰いたくてやって来たんですよ。日本では、本物のカウボーイは貴方だけだと聞いていますから」
今まで、迷惑で億劫そうな態度に見えたが、彼の顔が緩んだ。作戦は成功したのだ。彼はロープを手に取り、表に飛び出た。後に続く。
手作りで、そり式になっているDummy(注:牛の角を付けたダミー)があった。自分も我流だが一応投げていたので、基礎的なことは省き、練習開始。練習しながら話しているうちに、どんどん打ち溶けていった。
そうしているうちに、ギンギラギンのカウボーイではなく、本物により近くを目指している事を彼も分かってくれたし、認めさせた、と俺は思っていたが、どうもそうではないらしい。彼が親近感を覚えたのは違う事だった。
明日は牧場内を案内してくれるとの事。
「あぁ北の国の九月は、もう秋か」
夕焼けに染まる駒ヶ岳を見ながら、一人呟くのであった。北海道の、一日目の朝を迎えた。真っ青に晴れ上がった空、駒ヶ岳の登山道もハッキリと見える程。馬の手入れに力が入る、お供にはシェパード犬、場内の傍の道に沿って行き、農家の裏道から放牧場に入る。
そこは、盆地を縮小したみたいに、周りが丘で囲まれている。直線にして、500メートル位はあるだろう、そこを横断する形で馬を進めている時、突然ライジングスターが声を上げた。
「頭を低くしろ、今、丘の上に人影が見えた。俺が合図したら前方の森の中に逃げ込め、全速力で突っ走るんだ、それ、行け!!」
俺は、何が何だかわからないままに(北海道だから、もしかしてヒグマでもと・・・頭をよぎる)馬を走らせたのである。
「おい、何があったんだよ」
「こういう場所に来たら、細心の注意が必要なんだ。何時、何処から狙撃されるかわからない。西部で生き延びる為には、自分で自分を守らなければいけない」
「おい頼むよ、そういう事なら、事前に打ち合わせしてくれよ。ビックリしたものだから、俺、必死になって馬を飛ばしたよ」
と、後で大笑い。こんな茶目っ気があるなんて思っていたら、俺も片意地を張る事もなかったのだ。そうした帰り道で彼が、
「今晩、家に来ないか。家族を紹介したい」
その夜、家族に挨拶し、食卓を囲み、酒など飲みながら、酔いがまわりはじめた頃、
「あのね、うちの人、昨日帰って来るなり、ニコニコしながら『母ァさん、今日来た奴は、すごい訛りがあるんだ。東京からだと言ったが、あれは違うな』と言ってたんですよ」
と、奥さんが言う。実は、これが「親近感」だったのだ。俺は群馬県、彼は山形県出身、今までは仲間から、訛りがあると言われつづけてきたが、本家本元に言われちゃ私も本物よ。それから、年に一度は(8年続く)彼の所へ足を運んだものさ。
ライジングスターには、こんな武勇伝がある。放牧場の見回りに行った時に、平坦地から山道に差し掛かる手前に来た途端、馬が異様な動きをし、興奮していたそうです。数十メートル先の藪に何かがいる気配、突然
「ガォー」
という叫び声と共に、二メートルもあるヒグマが仁王立ち。彼は一目散に逃げ帰った、のではなく、家に帰ってRopeを持参して再び戻った。が、ヒグマの姿はなかった。彼は何とRopeで捕まえようとしたのだそうだ。
ウエスタンの絵画に、カウボーイ数人が、グリズリーを投げ縄で捕獲しようとしているのがある、それを真似たのだろう。それにしても、信じられないことをやってのけるのが彼なのだ。本人が言うのだから、間違いはないだろう。その頃、我々は、「キャトルティックス」(牛の糞)というRopingの同好会を結成していて、月一度位に集まって練習していたが、成果は?ということで、北海道へ行こうと決まった。
後になって思えば、これがいかに無謀だった事か、知らないとは恐ろしい、大事に至らなかったのが幸いだった。
北海道のライジングスターの勤める牧場で、生後二、三ヶ月位の雄の仔牛を去勢する事になった。山から牛の群れをコラールに追い込み、その中の去勢する一頭を五人で切り離す、それも馬でなく、人間がカッティングをやる、いかにも日本的ではないか。
こんどは各々でRopeを投げるが、仔牛の素走っこい事、右往左往に逃げまどう、人間の方が疲れてしまう。誰一人、ライジングスターさえも、ロープをかけることが出来ない、やっとの事でかかったのが、開始して一時間経過してからだから笑ってしまうよ。皆クタクタだが、取り押さえなくてはならない。
仔牛とはいえ、大人三人がかりでも振り回されてしまう。俺は仔牛に飛びついたが、逆に体当たりされて打撲はするし、おまけに後ろ足で顎を蹴られてしまった。少し上でしたら、前歯を折られていたよ。
いよいよ去勢手術だ。一人が仔牛の頭をレスリングのヘッドロックみたいに抑え、二人が後ろ足を開く様に抑える。番線切りみたいな大型のパンチで、生殖器の管をカットするらしいが、仔牛は「モーモー」と鳴きわめくし「モー」見ていられない。
東京からRopingを目指す仲間と行ったのだが、惨敗。これがキッカケなのか、「牛の糞」は解散、今では俺一人になってしまった。
第二部 VOL.11 (No.4)へつづく