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VOL.193「コミュニケーション・扶助(Aid)と合図(Cue)」


2026年5月号

1.コミュニケーション

 ライダーと馬とのコミュニケーションは、ライダーが主導権を握るという前提に行われなければならない。
 何故なら、ライダーは、馬上において物理的力を以て、馬を動かしたりその動きをコントロールしたりすることは不可能だからなのである。

 馬という同一物体上に、レインハンドと脚とシートなどによる作用点と支点とが位置しているために、作用点と支点の互いの力が相殺されて、馬が動くことには繋がらないからなのである。また、その動きを止めることも同様なのである。

 従って。ライダーは、馬とコミュニケーションして、馬のメンタルを活用しなければ、馬を動かしたりその動きをコントロールしたりすることはできないである。

 そのコミュニケーションとは、緊張と緩和によって成し得ることなのである。

 ライダーが、馬に対してプレッシャーをかけることで、馬は緊張し、馬がライダーの要求通りの反応をしたとき、そのプレッシャーをリリースして、馬の緊張を緩和することで、このコミュニケーションは成り立つのである。
 また、ライダーが馬にプレッシャーをかけても、馬が緊張しなかったり、馬がライダーの要求通りに反応をしなかったりした場合は、プレッシャーを継続するか増強して、馬に緊張を与えて要求通りの反応を求め、馬がライダーの要求通りに反応をしたときに、与えていたプレッシャーをリリースして、緊張を緩和させるのである。

 そして、このコミュケーションは、ライダーが主導権を握るものでなくてはならないのである。

 馬は、頭を上下動させ重心移動を行って、動いている動物なのである。

 従って、ライダーがレイン操作によって、馬の頭の上下動を拘束すれば、馬は動き難くなるのである。そこで、ライダーはレインをタイトにして、馬の頭の上下動を拘束し動き難くすると、馬の前進気勢は減退するので動きが鈍くなるのである。そして、脚で刺激を与えて、馬を動き難くしたうえで動かすという矛盾を行い、馬のメンタルに、ライダーの存在を大きくすることができ、そして、動いたときに与えていたプレッシャーをリリースして、緊張を緩和させれば、馬にとって緊張の緩和は報酬なので、馬はライダーから報酬を与えられることになるのである。

 馬は、ライダーからプレッシャーにより緊張を与えられ、そのプレッシャーをリリースし緩和もまたライダーから与えられる。
 この緊張と緩和の中で、馬の頭の上下動を拘束し動き難くし、そのうえで刺激を与えて馬を動かすという矛盾によって、馬はライダーに動かされたという意識を持つので、ライダー存在が、馬のメンタル上に大きくなり、馬に対して主導権が握れることとなるのである。
 ライダーが、馬に対していろいろな要求をするとき、馬体を曲げるということがあるが、馬体を曲げるという行為は、馬の推進力を減退することになるので、このときライダーが推進力を減退しないようにすれば、要求を馬に求めると同時に主導権を握るということになるのである。

 馬がライダー以外の要因で、例えば風などに驚いて緊張した場合、ライダーにはこの緊張を直接的に緩和することはできない。
 従って、一旦風による緊張を超える程の緊張をさせるために、ビットや脚のプレッシャーを与えて馬を緊張させ、そのうえで、与えていたプレッシャーをリリースすると、馬は緊張を緩和することができるのである。
 つまり、ライダー以外のことが原因で、馬が緊張した場合は、ライダーが直接これを緩和することはできないので、一旦外的要因における馬の緊張を越える緊張をライダーが与え、その後に、そのプレッシャーをリリースすれば、馬の緊張を緩和することができるのである。

2.扶助(Aid)と合図(Cue)

 乗馬は、ライダーと馬とのコミュニケーションで成り立つもので、ライダーは、馬上において、馬を動かしたりその動きをコントロールしたりすることにおいて、強制力を持たないので、馬のメンタルを活用しないと、馬をコントロールすることができないのである。
 ライダーは、レインハンドを使っても脚を使っても、作用点と支点が馬上という同一物体上に位置しているので、作用点と支点の力とが相殺されてしまい、物理的力とはならないのである。

 厳密にいえば、ライダーの体重、つまり重量は、ライダーが馬動きに影響を与えることができる唯一のもので、馬に対して物理的影響力を持っているのである。

 更にまた、馬の姿勢形成(フレームワーク)においては、ライダーが強制力を持ち、馬体上に直線または回転モーメント作ることで、内方姿勢や屈撓や収縮などの姿勢形成を、物理的力を以て強制的にできるのである。
 重ねていうが、どんなに姿勢形成(フレームワーク)をしても、馬が動くことに結びつくことはないのである。

 従って、レインハンドや脚によって、況してやライダーの姿勢によって、馬を動かすなどということは不可能であり、脚によって馬を動かすことをいう指導者は、頭がおかしいとしかいいようがないのである。

 乗馬において、ライダーが馬にあたえるプレッシャーは、二つに区分できて、一つは扶助(Aid)で、もう一つは、合図(Cue)である。

 扶助とは、馬の動きを補助するようなプレッシャーで、例えば、ライダーのポジショニング(姿勢)で、ライダーが前傾したり後傾したりすれば、当然馬にかかる重量の配分が変化するので、これを意図的に活用すれば、馬の動きに影響させることができるのである。
 また、レイン操作の中で引くというプレッシャーもまた、馬の動きに影響をもたらすことから扶助といえるのである。

 一方、合図は、馬のメンタルに訴えかけるプレッシャーで、例えば、タッチレインや脚のプレッシャーなどは、合図なのである。
 脚のプレッシャーを扶助だと理解されている人が多いように思うが、これは間違いで、どんなに脚でプレッシャーをかけても、全く馬に対して物理的に力がかかるということはないので、合図のカテゴリーに入るのである。

 この他にヴォイスキューがあり、舌呼と呼ばれ、高い音を出せば動きを促進し、低い音を出せば抑制になるのである。

 厳密にいえば、レインを引き、これを支えるためにシートや脚を連携させることは、馬体上に回転モーメント生じさせて、馬のフレームワークを、物理的力を以て形成することができるが、馬が動くことには何ら影響を与えることができないので、本来ライダーの重量以外のプレッシャーは、全て合図であって、馬の動きをヘルプするような影響を与えられる扶助といえるプレッシャーは、あり得ないのである。

 従って、扶助でも合図でも、プレッシャーを掛ければ、馬のメンタルに緊張を与え、ライダーの指示通りの反応を馬がしたとき、与えていたプレッシャーをリリースすれば、馬のメンタルの緊張を解くことになり、指示通りの反応でなかった場合は、プレッシャーを継続するか増強して、更なる緊張を与えて指示通りの反応を求め、指示に従ったときに、与えていたプレッシャーをリリースして、緊張を解くのである。

 このことが、乗馬における、ライダーと馬とのコミュニケーションの原則なのである。

 従って、ライダーの扶助や合図は、馬のメンタルには緊張を与えるもので、その中で、扶助は、馬の動きをヘルプする役割が含まれているのである。

 扶助も合図もライダーと馬とのコミュニケーションのツールであり、原則として、馬に与えるプレッシャーは、弱から強へスローリーに段階的に行うようにしなければ、馬のメンタルに興奮や混乱を招くリスクがあるので、ライダーには、細心の注意を払う必要がある。
 更に、ライダーは、どの程度の強さのプレッシャーで馬が反応するかを見極めて、どのタイミングでリリースするか一貫性以て行わなければならないのである。

 しかし、プレッシャーの強さにおいては、12345というように頭の中でカウントしながら段階的に行うべきで、例えば、5のプレッシャーで馬が反応したからといって、再びこれを馬に指示するとき、いきなり5のプレッシャーをかけてはならないのである。
 再び12345とカウントするように、徐々にプレッシャーを加えるようにすれば、4のプレッシャーを掛けたとき、馬が5のプレッシャーを予測するので、馬は4で反応するようになるのであり、このようにカウントするようにプレッシャーを掛けるように、ライダーが心掛ければ、やがて馬は1のプレッシャーで反応するようになるのである。

 ライダーによるプレッシャーは、馬を叱ることになり、プレッシャーをリリースすることは、馬を褒めることを意味するのである。

   そして、プレッシャーとリリースは、ライダーの感覚で行わなければならないのである。何故なら、プレッシャーを馬に与えたときの馬体との接触感が、馬のメンタルの現れだからである。
 プレッシャーの馬体との接触感が硬かったり重かったりするのは、馬が能動的に喜んで反応しているわけではないからである。硬かったり重かったりするのは、それだけ馬の抵抗や反抗があるからなのである。

 従って、外形的に馬の首が曲がったり肢が動いたりしたからといって、プレッシャーをリリースすれば、馬の抵抗や反抗を募ってしまう畏れがあるのである。

 接触感が柔らかかったり軽かったりすれば、馬が従順であり能動的に、ライダーの指示に従おうとしている現れなのである。
 ライダーは、扶助でも合図でも、プレッシャーの馬体との接触点においての感触の変化を追いかけて、より柔らかく、より軽くなるように、かけるプレッシャーの強弱をコントロールしなければならないのである。
 つまり、プレッシャーを与えたときの感触が硬かったり重かったりすれば、プレッシャーを継続または増強して、少しでも柔らかく軽くしてから、プレッシャーをリリーしなければならなのである。

2026年1月26日
著者 土岐田 勘次郎

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