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    VOL.99「乗馬における二つの視点と上達」

 2018年7月号

 今月は、先日開催されました第35回EWPC Congressのときの感想を踏まえて、少し視点を変えライダーの上達をテーマに考察してみます。

 さてライダーは、何らかの目的を以て、馬に対しキュー(Cue合図)やエイド(Aid扶助)を行います。その目的は、駈歩発進やストップや方向の転換です。従って、ライダーの意識はこの目的に占有されます。そして多くのライダーが陥る問題は、意識がこの目的に向かうものですから、キューやエイドによる馬体との接触点における馬の反応を見逃してしまいがちになるのです。

 本来は、ライダーの馬の対するキューやエイドによるプレッシャーに対する馬の反応を、ライダーはそのプレッシャーの馬体との接触点における反作用のテンションで感じ取っていなければならないのに、ライダーが目的に気を取られているために、プレッシャーの接触点の反作用によって、そのプレッシャーをリリースするのか加増するのかを決めなくてはならないのに、次のプレッシャーがちぐはぐになって、馬をコントロールできなくなってしまうのです。

 更にこのことで問題を大きくしているのは、この問題を克服しようとして乗馬するのではなく、つまりライダーが、プレッシャーの接触点に意識を向けずに、上手に駈歩発進しようとしたり、ストップしたり方向転換をしようとしたりするばかりで、失敗を繰り返してしまうことなのです。

 そしてライダーは、駈歩発進やストップや方向転換が上手くできないと思い込むのです。

 実際にライダーが上手くできていないことは、プレッシャーをかけた時に、接触点の反作用であるテンションを認識できていないことが原因だといっても過言ではないではないでしょうか。もし、ライダーがプレッシャーの接触点における反作用のテンションを認識していれば、馬が目的に沿った反応を示さないのを即座に気づくことができて、自らのプレッシャーのかけ方を修正することができ、これを繰り返せば、長い時間をかけることなく、ライダーの目的に合った馬の反応を誘導することができるようになるのです。

 そしてまた、ライダーは、その目的である駈歩発進やストップや方向転換などをするために、自らのプレッシャーは何をしているかを知る必要があります。つまりライダーのプレッシャーは、直接目的をなすためのものではなく、間接的に目的を誘導するものですから、ライダーのプレッシャーは、直接何をしていて、目的をどのように誘導しているかを知る必要があるのです。

 そこで、駈歩発進ためのプレッシャーは、直接何をしているのでしょうか。



 駈歩発進の場合は、馬の頭から肩にかけて左右に動かないようにロックするため左右のレインを均等の長さでホールドします。そしてこのホールドしているところを支点にして、外方後肢を外方前肢より内方へステップをさせるように外方脚でプレッシャーをかけるのです。つまり、ライダーは左右のレインを均等にホールドし、馬の頭から肩までを真っ直ぐに保つようにします。そしてここを支点にして、外方の後肢が外方の前肢より内方へステップするように外方脚でプレッシャーをかけます。
 ここで重要なことは、レインでホールドしているところを支点にするということです。外方脚でプレッシャーをかける力は、レインをホールドしているところを支えとしてプレッシャーをかけるということなのです。脚だけ単独でプレッシャーをかけているわけではないということです。


 従って、外方脚でプレッシャーをかけた時、馬の外方後肢が外方前肢より内方へステップしないとき、ライダーはレインでホールドしている状態に不都合が起 きているのかどうかを見なくてはなりません。つまり、馬の頭から肩までが真っ直ぐにロックされていなくて、馬の頭が外や内に向いてしまうことで外方脚のプ レッシャーの支点の役目が果たされなくなってしまっているのです。
 このとき、この状態をライダーは認識していることが重要で、認識できていれば、左右のレインが均等かどうかやホールドできているかどうかを直ちに確認をして修正することができるのです。


 ストップの場合は、馬は走行しているとき首を使って、頭を前後に動かしながら重心移動を行っているので、レインを引いてストップさせようとするとき、馬の頭の前後の動きを止めようとしているのです。馬の頭の前後の動きが止まるので馬がストップをしているので、ライダーは、馬の動きを、直接レインを引くことで止めることはできないのです。
 従って、馬の頭の前後の動きを止めるようにレインを引く意識がライダーになければなりません。厳密にいえば、馬の頭が前に行くときに、これを制止するためにレインを引くようにするのです。つまりレインを引っ張るわけではなくて、馬の頭の動きを制止するために、前方へ頭が行くのを止めるためにレインを引くのです。

 方向転換は、前肢のステップの方向を変えることで行います。
 馬は、後肢のステップの方向を変えることもできますが、特別な場合を除いて方向転換をする場合、前肢のステップ角度を大きくしたり小さくしたり、ステップそのものを左右どちらかへ変えたりすることで行います。

 従ってライダーは、前肢のステップに影響を与えるようにレインを操作するのです。
 このときの支点は、内方の後肢です。内方の後肢を支点にして推進エネルギーに対して抑制力としてのプレッシャーをレイン操作でかけます。つまり、変換方向の内方の後肢が支点になるので、内方後肢のステップインを阻止しながら、この力を支点として内方へレインを引き前肢のステップインを促します。
 レインを引いて、内方へ馬の首を曲げることをするわけではありません。あくまでも前肢のステップインを求めるわけです。このとき支点となるのが内方後肢ですので、内方脚で内方後肢のステップインを阻止するように支点にした力で、左右のレインをインサイドへ前肢がステップするように引きます。

 ライダーが馬の動きをコントロールしようとするとき、プレッシャーの馬体との接触点における反作用のテンションに意識を向けることは必須要件です。当然馬に駈歩発進させるのかストップさせるのか方向転換させるのかが意識にないわけにはまいりませんが、同時にプレッシャーの馬体への接触点における反作用のテンションを意識下におかなくなくてはなりません。この反作用のテンションがライダーの意図に即したものでなければ、間接的に誘導される駈歩発進やストップや方向転換は実現できないのです。

 従って、ライダーの上達は、プレッシャーの馬体との接触点における反作用のテンションを間断なく認知することによって実現できることなのです。

2018年6月26日
著者 土岐田 勘次郎

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