Horseman's Column title

    VOL.77「ポスチャー」


 2016年9月号

 今月のテーマは、ポスチャーで、姿勢・形勢・ポーズ・体勢などという意味があり、馬術における馬のポス チャーについて解説したい。
 そして、馬術おけるポスチャーの定義を体勢ということにして、稿を進めていこうと思う。

 馬のポスチャーは、馬術において極めて重要なファクターで、ライダーが馬上で、馬を駆動することに唯一関わ れるチャンネルなのである。

 基本的に、ライダーが馬上にあって、馬を動かすことはできない。つまり、ライダー自身に馬を動かす駆動力は ないということだ。しかし、ライダーの体重は、馬が駆動することに大きく関わりを持つのである。

 物体が動くには、これを支持する支点おける力を超える重力(位置エネルギー)が加わればこの物体 は動くのである。この物体が自ら動くには、支持力を超える重力がかかるように、支持力と重量とのバランスを崩すために、支持力を弱めるか、重力を高めるか のどちらか、またはその両方なのである。

 馬は、首を上後下前して支持力を重力が超えるようにして駆動している。また、筋力を以て位置エネルギーを増 幅させ支持力を超えるようにして駆動しているのである。

  首を上後下前するとは、例えば、常歩で、首を左後方へ上げて重心を左後肢へ移行させ、次に左前方へ下げて重心を左前肢へ移行し、次に右後方へ上げて右後肢 へ重心を移行して、次に右前方へ下げて右前肢へ重心を移行する。つまり、馬の首は、8の字を書くように、左後方へ上げ、左前方へ下げ、右後方へ上げ、右前 方へ下げるようにして、重心移動を起こし支持力を超える位置エネルギーを作り出して駆動しているのである。
 これをメカニカルムーブメントという。

 そしてまた、特に後肢の筋力で、自らの体重を持ち上げるようにして支持力を超える位置エネルギーを作り出し て駆動する。
 これをテクニカルムーブメントという。
 馬のき甲から頭までの重量は、馬体重量の30%〜20%だそうで、このパーツを上下動して支持力との関係性において、肢の筋力を使わずしてまたは軽減し て馬は動くことができるのである。

 そこで、馬が収縮するとは、馬体を支えている支点である4肢を重心の真下近くへ移動することであり、支持力 が最小限になり支持力を超える位置エネルギーが小さくて済むようにすることをいうのである。
 つまり、収縮の目的は、大きな運動エネルギーを使うことなく駆動できるようにすることであり、軽快に運動しやすくすることなのである。

 そこで、ライダーが、馬上で馬のフレーム(Frame)を、強制力を以て形成することができ、このことが馬 をコントロールする上で最重要なファクターであることが分かるのである。

 つまり、ライダーは馬上で、レインとシートや脚で回転モーメントを馬体の中で起こすことができ、その回転 モーメントによって、馬のフレームを形成することができ支持力と重力との関係性において間接的に馬の動きをコントロールしているのである。

 

 乗馬における回転モーメントとは、レインをピックアップして上方向の力をかけ、その反作用としてシートで下 方向の力をかけて、縦方向(立面)の回転モーメントが作られる。
 馬体を左側面から俯瞰すれば、右回転のモーメントになるのである。

 また、ピックアップするレインを右方向へ、その反作用としてシートは左方向へ力をかけることによって、馬体 を上から俯瞰すれば、横方向(水平)の右回転モーメントになり左内方姿勢を形成し、その逆は左回転モーメントになり右内方姿勢を形成するのである。

 つまり、ライダーはシートや脚とレインによって回転モーメントを作り出して、内方姿勢や屈撓や収縮を、強制 力を以て形成することができるということなのである。

 ちょっとだけ余談になるが、フレームとポスチャーとの違いや関係性は、ほぼ同じ意味であると考えればいい が、フレームは馬の姿勢を意味して内方姿勢や屈撓や収縮を指し、ポスチャーはその姿勢と重心との関係性を意味すると、私は定義している。

  ライダーは、強制力を以て馬体上で回転モーメントを作り、内方姿勢や収縮を形成する。このとき、重心と支持点(4肢の位置)との位置関係をコントロールし て支持力の増減を図って、支持力が大きくなれば推進力が減退して、支持力が減少すれば推進力が増幅することで、馬の動きをコントロールしようとしているの である。更にまた、脚で刺激を与えることなどで、馬の筋肉の作用を大きくして位置エネルギーを増幅させて支持力を超えるようにし、馬自身が自分を駆動する ように仕向けているのであるが、この場合は、馬のメンタルの従順性やコンセントレーションが大きく作用し、反抗的であったりナーバスになっていたりすれ ば、馬のテクニカルムーブメントである筋肉運動をさせることはできないのである。

 つまり馬の運動には、メカニカルムーブメントとテクニカルムーブメントがあるが、メカニカルムーブメントに は馬のポスチャーが大きく作用し、テクニカルムーブメントには馬のメンタルが大きく作用するといえるのである。

 例えば、馬を収縮させて支持力を最小値にしているときに、ライダーが少しだけ前傾すれば、馬とライダーとで 作る合成重心が前に移動し、馬は前進する。また、ライダーが少しだけ後傾することによって、合成重心が後ろへ移動し、馬は後退するのである。

 以上のように、馬のポスチャーは、馬の運動に大きく関与する要因で、ライダーは、レインとシートとをより遠 くの位置で上下逆方向の力をかけることで、より大きな回転モーメントを作り出すことができて、馬のポスチャーやフレームを形成することができるのである。

 ライダーが馬のポスチャーを形成するということは、支持力の増減をコントロールしていることであり、支持力 を最小限化すれば推進力を増幅させやすくなり、支持力を最大化すれば推進力を減退させやすくできるのである。

2016年8月10日
著者 土岐田 勘次郎


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