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    VOL.50 ライダーの上達



                                                 

 2014年6月号



 ライダーが乗馬を上達するために、どんな過程を経ることが尤も合理的で、容易にできるのかを考察してみたい。

 馬に乗るには、馬の背中で馬の動きをコントロールしなければならない。その馬の運動をコントロールするには、馬の背中でバランスを取り、馬を推進して、推進で起きた運動をガイドするということだ。

 バランスを取るには、反射神経によって行い意識的に行うことはできない。一方、推進とガイドは、意図的に行うことだから、意識的に運動神経を駆使して行うことになる。

 つまり、ライダーが馬の運動をコントロールするには、反射神経による無意識な機能と、意識的機能との両方を使って行うのである。

 ところが、人は、同時に無意識的機能と意識的機能を両立することは、ある程度の訓練が必要で、意識的機能は無意識的機能を阻害する要因を持ち、無意識的機能は意識的機能を阻害する要因を持つので、互いの機能を阻害することなく両立することは訓練が必要なのである。

 そして、意識的機能が無意識的機能を阻害するときに、反射やバランスなどの機能障害が発生し、無意識的機能が意識的機能を阻害するときに、不安や恐怖感を抱き冷静に思考することが停止する傾向になる。

 無意識的機能と意識的機能とが両立した完成形は、無意識的機能に意識を織り込むことでできる。つまり、意識的に運動神経や反射神経を機能させるようになるのではなくて、感覚情報を絶えず脳が認識するように訓練することによって、反射神経や運動神経の反応に脳が要求することを反映させることができるようになるので、無意識的機能に意図を織り込むことになるのである。

 

 このためには、訓練の初期段階において、意識的機能を作用させずに運動の訓練をすることがとても重要だ。

 そこで、この両方の機能を両立させるための段階的順序として、極力意識的機能を必要としない環境で、無意識的機能が充分阻害されることなく働けるようにして、訓練することが最も有効なのである。

 つまり、推進とガイドを必要としない環境で、バランスを取るだけにして馬に乗ることが、合理的で容易に無意識的機能を駆使できて、初心者のライダーを上達させることができる。

 この段階のライダーに、姿勢や推進のための脚やガイドのためのレイン操作などをテーチングすることは論外で、断じてやってはならないことなのである。
 何故なら、無意識的機能が未熟な段階で、姿勢や推進やガイドなどを強要することは、意識的機能を働かせることになるので、無意識的機能を阻害することになって、バランスを取りリラックスして馬に乗ることを遠ざけてしまうことになるのである。

 この無意識的機能に意図を織り込むように訓練することは、初級者だけの問題ではない。中級者や上級者にとっても絶えずこのように努めなくてはならない。現代人は、感じるより考えることの方を優先してしまいがちで、ものごと始める段階でマニュアル本を読もうとすることは、典型的な例なのである。







 ライダーが意図して手足を動かしたとき、その手足の知覚細胞が感覚情報を感知して、脳へ感覚神経を通して脳へ送信し、脳がこの感覚情報を認識すれば、反射神経や運動神経は自動的に反応するように、必要な筋肉を作動させるように機能するのである。

 つまり、筋肉の作動させ方を訓練する必要などないのであり、訓練して鍛えることは、知識や経験や予測に惑わされずに、送られてくる感覚情報を脳が認知することなのである。

 感覚情報を的確に認知して、運動を起こしたり思考を始めたりシステムを自分の中に構築しない限り、スポーツや物作りの技能や本来学問でも、上達や向上することはできないのである。

 

 現代人は知識教育によって、知識を広めることが能力を向上すると勘違いして、成人してしまっているので、感性が養成されていないので、感覚情報を認知してからものを考えることが中々できないので、先ず乗馬の中にこのシステムを取り入れて行くことが始まりになる。

 絶えずリアルタイムに、自分が感じている感覚を認知するとともにどんな感情を抱いているかも認知するように訓練する。

 それが、乗馬はこのシステムを自分の中に取り入れるために、とっても相応しいスポーツで、特に初期段階で、極力無意識的機能だけを駆使して乗って、反射神経や運動神経を大脳が束縛しないように、自由にして機能するように丸馬場や調馬索で、姿勢と推進とガイドを要せずに騎乗するように始めなくてはならない。

 もし、姿勢やガイドや推進を強要させられて騎乗を始めれば、一生乗馬の喜びを感じ取れないライダーを作ってしまいかねないのである。

 感性が行動のイニシアティブをとって生活していない人には、その自覚がないので、大脳を使わないことも感覚情報を認知することも、予測や経験則で行動していることも見分けがつかないので、慣れていることよりも始めて経験することで、なるべく意識的機能を駆使せずに反射神経や運動神経が自在に反応できることをモットーにして訓練しなければならないのである。

 

 余談だが、日本社会で天才的な音楽家やスポーツ選手が生まれにくいのは、意識的機能に無意識的機能を織り込むような訓練法をやっているからで、天才の芽を多くの教育者がつぶしているからなのである。

 無意識的機能に意識的機能を織り込むように訓練することが、学問でもスポーツでも芸術でも必要なのである。




                 2014年 5月21日

                 著者 土岐田 勘次郎


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