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    VOL.46「推進(Drive)と停止(Stop)」



                                                 

 2014年2月号


 今月のテーマは、推進と停止についてであり、支点と重心の位置と運動との相関関係である。

 ものが運動をするということは、重心の移動であり、支点と重心の位置と運動との相関関係は、支点における支持力、重力質量(重量)、それぞれの力量が一定であると仮定すれば、支点と重心との位置関係において重心の移動が決定し、重心に対して支点が左に位置すれば、ものは右方向へ運動し、支点が右に位置すれば、左方向へ運動する。そして、重心の真下に位置することによって、停止を維持する。

 そしてそれはまた、重心が、支点より左に位置すれば左方向へ運動し、右に位置すれば右方向へ運動し、真上に位置すれば停止を維持する。

 

 しかし、運動には加速があり慣性があるので、運動している状態において重心と支点が垂直線上に位置したとしても、運動が停止することにはならない。

 従って、ものが左方向へ運動している場合は、重心を支点より右へ、または支点を重心より左へ移行させることによって、運動を停止させることができ、ものが右方向へ運動している場合は、重心を支点より左へ、または支点を重心より右へ移行させることによって、運動を停止させることができるのである。

 ライダーが、馬を推進する場合には二通りあって、その1つは、ライダーがポジションを前傾したり、馬の頭を下方へ動かしたり、首を伸ばしたりして、重心を支点である肢の負重位置より前方へ移行させるようにする場合と、もう一つは、ライダーがポジションを後肢への負重を維持したまま前傾することなく、馬に肢の筋力を行使させて重心を持ちあげて支点より前に位置させる場合である。

 

 ものが運動するということは、支点より運動方向へ重心が位置している状態で、重心が支点より運動方向へ位置したまま運動する場合(メカニカルムーブメント)と、支点を中心に重心が運動方向とその逆方向に往復しながら運動する場合(テクニカルムーブメント)の二通りがある。
 重心が支点の前方と後方の位置を往復する場合の運動は、重心が支点の後方に位置したときに、重心を支点の前方へ押し出す力が必要になり、その力はそのものの重力質量を超える力でなくてはならない。
 また、重心が支点より前に位置したまま運動する場合は、重力質量そのものが駆動力となる。

 馬の場合は、支点は前後肢の着地位置であり、重心は、馬とライダーとの質量の中間点である合成重心となり、支点は、ステップによって位置が変動し、重心は馬の頭の上下や首の曲げ伸ばしや前後肢の位置(馬の体勢)と、ライダーの前傾や後傾などの姿勢によって変動する。



 ライダーによる推進は、前傾して支点より重心が前になるようにして、自らの体重と馬体重を直接駆動力に転化する方法が1つで、もう一つは、自らの体重を支点(この場合は、特に後肢の着地点)より後方へ維持するように後駆へ負重し、後肢の筋力によって重心を支点の前に押し出すように作用させる方法である。

 ライダーが馬の運動をコントロールするということは、支点と重心との位置関係をコントロールすることであり、ステップの方向やストライドによって支点の位置をコントロールする場合と、ライダーの前後傾などの姿勢や屈撓や収縮による馬の体勢によって、重心の位置をコントロールする場合、そしてその両方をコントロールするということなのである。

 発進する場合もまた二通りあって、ライダーが前傾して支点の前に重心を位置させ、重力を駆動力として活用して発進する場合と、ライダーが前傾しないように鐙にではなくてシートに負重して、重心を支点より後方に位置させたまま、後肢の筋力によって駆動する場合とがある。

 そしてレイニングの場合は、方向の転換や停止の伴う運動が多く含まれるので、テクニカルムーブメントである発進とそのムーブメント、つまり支点より後方に重心が位置したままで発進し、運動の最中は、支点を中心としてその前後を重心が往復することが要求されるのである。

 

 走っている馬を停止させるのは、重心が支点の前に位置したまま運動している場合(メカニカルムーブメント)は、レインを引いて馬の頭を後方へ持っていって、重心を支点の後方に位置するようにしなければならないし、重心が支点の前後を往復して運動している場合(テクニカルムーブメント)は、重心が支点の後方に位置した直後に、重心を前に押し出すこと(駆動)を止めさせるようにしなければならないということである。

 つまり、ルーズレインで運動を停止するウエスタンの乗馬は、物理的にテクニカルムーブメントでなくてはできないということなのである。

 馬を停止させる場合、メカニカルまたはテクニカルムーブメントの何れにしても、重心を支点の後ろにするか、支点を重心の前にするかをしなければならないのであり、推進を止めることによって馬を停止させるのか、推進することによって、馬を停止させるのかが問題になる。

 その結論として、レイニングにおけるストップは、より推進することによって求めるものなのである。

 何故なら、その推進は、支点である馬の肢を重心より前にステップさせて、その後に、肢の筋力で重心を支点の前方へ押し出し、着地するときは空間で重心を肢が追い越してステップすることを繰り返しているおり、より推進することは、重心を前に押し出すと同時に重心より前に支点を着地させることになるので、馬はより容易にストップのモーションに入ることができるのである。

 実際に馬の肢は、ステップするときに重心を持ち上げて支点の前方へ押し出し、更に空中で着地する前に重心を追い越す場合と、最初から重心をライダーが前傾したり馬の頭を前にしたりして支点の前に送り出し、送り出された重心を支えるためにステップする場合とがあり、重心を支点が追い越す場合をテクニカルムーブメントいい、追い越さずに着地するのをメカニカルムーブメントというのである。

 レイニングホースとして完成度の高い馬は、支点と重心のそれぞれの位置を、自在にそして任意にコントロールできるように、ストライドの伸縮や方向や頭項や後駆などのフレキシブルな柔軟性がある馬のことなのである。




                 2014年 1月20日

                 著者 土岐田 勘次郎


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