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    VOL.43 「スピン」



                                                 

 2013年11月号

 今月のテーマは、スピンである。

 スピンは、内方後肢を軸肢にして、回転方向の前後肢ともに、内方肢の外前方を外方肢が交差する回転運動で、ピボットターンでありターンアラウンドでもある。

 馬にはステップの原則があって、前進運動において前後肢共に、内方肢に対して外方肢が外前方を交差してステップすること(クロスオーバーステップ)で、これを私はステップのコマンドと名付けている。

 このステップのコマンドを、極めて小さい回転運動において行っているのがスピンなのである。

 回転運動は、独楽を見るとよく分かる原理があって、独楽は回転しなければ立っていることはできない。回転することによって遠心力と求心力が均衡して立っていることができる。このとき回転軸が重心と一致するのである。

 この原理をもって馬のスピンを分析すると、独楽のように内方後肢が重心の真下に位置すれば、内方後肢を軸にして回転運動をすることができる。しかし、馬の場合は、軸肢が重心の真下に位置しなくても、他の肢が遠心力と求心力との差をカバーして、回転運動をすることができる。しかし、このとき軸がずれて移動したり回転運動がスムーズでなかったりしてしまうのである。

 スピンは、バランスの運動ということができる。

 例えば、回転軸がずれてしまったり運動がスムーズでなかったり、スピードアップができなかったりという問題は、その殆どが重心と軸肢との関係性の問題を解決することによって改善するのである。
 つまり、回転運動の軸肢となる内方後肢が、重心とずれた位置にあるということが問題を作っているので、内方後肢を重心の真下近くに持っていくことができれば、改善できるということだ。

 ステップのコマンドとバランシングの二つの要素によって馬は、スピンを行うことができるのである。

 

 スピンのトレーニングは、極言すれば、ステップのコマンドと内方後肢の踏み込みを作ることによってすることができるのである。

 さて、ステップのコマンドは、前進気勢があるとき馬は、自然にこのコマンドでステップするものだが、この前進気勢を抑制して阻害することによって、このコマンドが壊れてしまう状況が生まれる。

 大きなサークルから小さいサークルへと軌道を修正すると、前肢のコマンドは維持されるが後肢のコマンドが壊れてしまうことが多い。つまり、外方前肢が内方前肢の外前方を交差しステップ(クロスオーバーステップ)するが、小さい軌道の回転運動にすることによって前進気勢が失われるから、外方後肢のストライドが小さくなって、内方後肢が外方後肢の後方を交差するようにステップして、軸肢が外方後肢になってしまうのである。

 従って、前進気勢の中で、スピンをトレーニングすることが重要である。

 私のスピンにおけるトレーニングプログラムは、先ずステップのコマンドを訓練することで、新馬のトレーニングで先ずすることは、後肢をステップさせながら小さい回転運動をする。

 前肢はステップのコマンドをキープさせて小さい回転運動を促し、このとき意図的に後肢をステップアウトさせる。

 そして極限まで小さい回転運動をして、内方脚で内方レインを引くのと同時にその反対側(回転のアウト)へプッシュする。すると前肢は小さい回転運動をしようとして、内方前肢に対して外方前肢がより大きくクロスオーバーし、後肢はより大きくステップアウトする。この大きくステップアウトする後肢は、内方後肢が馬体の重心真下まで大きく踏み込み、その外側を外方後肢がクロスオーバーしてステップするようになる。



 そして、極限まで小さい回転運動にしたとき、それまでフリーだった外方レインをピックアップして外方前肢の運動を抑制し、外方前肢の大きな角度のサイドステップを促して、スピンのステップを作るのである。このようにすることによって、内方後肢が深く踏み込み且つ外方前肢が大きな角度のサイドステップをするようになって、スピンの基礎を作るのである。

 スピンの運動を形成する要素は、バランシングとステップのコマンドなのである。

 これらの二つの要素は、互いに関連し合っており、平行して訓練しなくてはならないことであり、後肢に深い踏み込みをさせるために後肢の柔軟性が必要で、前肢の大きな角度のサイドステップを可能にするためにショルダーの柔軟性もまた必要なのである。

 そしてこれらの柔軟性は、サイドステップとバランシングをするために欠かすことができない要素なのである。

 ライダーは、踏み込んだ後肢の真上にポジショニングする必要があり、このときスティラップ(鐙)に負重する割合を小さくする必要がある。何故なら、スティラップに負重すればシートとスティラップ(2点)の3点にライダーの重心が分散されるようになって、スピンの回転軸が分散されてスムーズな運動を妨げるからである。

 

 また、スピンのショーイングのときのリスクは、停止位置の正確さである。回転の1/8の誤差は−1/2ポイントのペナルティが1/2の誤差は−1ポイントのペナルティにつながる。

 私の場合は、停止の合図をレインのリリースと共にウォーと発声してボイスキューを使う。ウォーといったとき停止位置が正確でなかったとき、必ずバックアップさせる。これを繰り返すことによって、馬は必ずウォーの合図で直ちに停止するようになるのである。

 スピンは、スピードの速いピボットターンすることが求められる反面、停止位置がわずかにずれただけでペナルティとなることが表裏一体的にあるパフォーマンスだから、ステップの訓練と同時に停止の訓練も怠ってはならないと認識する必要がある。

 スピンに問題があるときは、ショルダーと後駆の柔軟性を精査してこれを養成し、ステップのコマンドとバランシングを正すことによって、必ずや改善するのである。

 後肢の踏み込み(バランスバック)なしに、スピンの高速化は望めないのである。

 バランシングは、後肢の踏み込みによってできることであるが、一元的に後肢の踏み込みだけをしようとするだけでなく、スピードアップすることによっても、重心の真下近くへと軸肢をもって行こうすることもあるので、結果として重心の近くへ軸肢を位置するように、できることをフレキシブルに行う必要がある。

 スピンは、パフォーマンスのマヌーバーの一つとして捉えるばかりでなく、馬の運動の全てにつながる要素が内在しているので、レイニングホースを選択する場合にスピンの良い馬を選んだり、スライディングストップをした後にスピンが良くなったり、スピンした後のストップが良くなったりするので、ライダーは、馬の動きの大切な要素の1つとしてスピンを捉えなくてはならないということである。

 最近ではトレースホースもプレジャーホースもローピングホースもスピンの訓練がトレーニングプログラムの一つになっていることを見れば明らかなのである。






           2013年10月25日

           著者 土岐田 勘次郎


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