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    VOL.42 「スライディングストップ」



                                                 

 2013年10月号


 今月のテーマは、スライディングストップで、レイニングの競技のパターンでは、必ず3回〜4回入るマヌーバーである。


 元々スライディングの起原は、ヨーロッパのナイト(騎士)の間で、長い槍を持つ騎馬戦で生まれたといわれていますが、近代では、牛を馬で追いかけ急激な方向転換の動きから(ワーキングカウホース)このルーツを見ることができるものである。


 「National Reining Horse Association(NRHA)は、スライディングストップの ことを、馬の後肢を馬体の下まで踏み込ませてロックし、スライディングさせることによって、駈歩からスピードを落としてストップの体勢に移行させることを言う。

 馬は前進気勢とグラウンドコンタクト、前肢のカデンスを維持したまま、背中を丸めて後肢を深く踏み込んだ状態でストップの体勢に入るのが望ましい。また、後肢でグラウンドコンタクトしたまま、真っ直ぐスライディングしなければならない。」と規定している。

 要約すれば、旺盛な前進気勢と後肢の深い踏み込みでストップの態勢に入ることと後肢のグランドコンタクトを維持したまま真っ直ぐにスライディングすることを要求している。
 この規定に則っていることが最低の条件なので、旺盛な前進気勢が失われていれば、アベレージスコアである0を取ることはできないのである。

 

 スライディングストップのためのランダウンにおける前進気勢は、後肢が重心の前に着地することを繰り返しているムーブメントでなければならない。
 馬体を、左側を頭にして横から俯瞰したとき、後肢が重心より前に着地を繰り返すムーブメント(テクニカルムーブメント)は、時計回り(右回り)のムーブメントでスライディングストップの重要な要素であり、逆に後肢が重心より後方に着地を繰り返すムーブメントは、左回りのムーブメントで、それはメカニカルムーブメントでありスライディングストップするために必要な要素が失われるのである。

 馬が走行するとき必ず馬の後肢は着地後に、グランドによって上方へ持ち上げられる圧力が加わる。このとき、後肢の着地位置が重心より前であるか後ろであるかが問題になる。
 何故なら後肢が重心より前に着地していれば、後肢がグランドからの圧力で上方へ持ち上がるとき、同時に馬の重心より前のショルダーやネックが上方へビルドアップされることになり、後肢により前方へ圧力が加わるのでグランドコンタクトを維持することになるのである。

 しかし、後肢が重心より後方に着地を繰り返すムーブメントでは、重心より後方(臀部)がビルドアップすることになって、後肢には後方へ圧力が加わることになってグランドコンタクトを維持できない。また重心より前のショルダーやネックが下方へ向くので、前肢への負荷が大きくなって前肢の故障につながるリスクが高くなるのである。

 つまり、馬の走行は、後肢が重心よりに前の踏み込んだときに時計回りのテクニカルムーブメントとなり、このムーブメントがスライディングストップには必須要件なのである。

 しかし、レイニングホースとしてトレーニングされた馬は、メカニカルムーブメントであってもストップのときスライディングしようとするから、未熟なライダーは、後肢が重心より前に着地することに関心を持たないでこれを繰り返すので、馬がこれを拒否したり故障したりしてしまうのである。

 さて、後肢の踏み込みを重心より前まで持っていくには、ライダーがスティラップに負重しないで、シートにより多くの体重を負重し、そして上体を起こして後肢に上の乗るようなイメージの姿勢を維持することが必要だ。
 そして、後肢の推進を高めるためにシートと脚でドライブして、同時にレインを一定の長さに保ち、その推進によってビットにぶつかる圧力をホールドする。このときライダーは、後肢の着地位置を自分の座っている位置より前に持っていこうという意識で推進することが重要だ。



 また、後肢が深く踏み込めるように後肢の可動域を大きくするためのエクササイズが必要で、リブケージの柔軟性や後肢の可動域を大きくする運動をしてから、後肢の踏み込みを作る必要があって、この柔軟性を高めずに深い踏み込みを求めれば馬とファイトすることになって、馬のレジスタンスを作ってしまうことになる。

 後肢の可動域やリブケージの柔軟性を求めるエクササイズには、バックアップ(後退)による運動が効果的だ。

 

 バックアップの際に、後肢が馬体の前方にグランドを押し出すような運歩を求めることが重要で、後肢が臀部の後方へステップするような運歩であってはならない。

 このためにレインを一定にホールドしてにバックアップの指示をして、ライダーは、スライディングストップのときの姿勢を取り、そのときに自然に降りる脚の位置で両脚をバンプして、バックアップを促す。
 このとき、レインを強く引いて馬の頭を下げようとしてはならない。また、両脚のバンプなしでレインを引いて頭を下げるようにバックアップすれば、馬は後肢を臀部の後方へ運歩してしまうことになる。

 一定のビットプレッシャーを与えてホールドしたレインは、それ以上引かずに、両脚のバンプによってバックアップさせれば、徐々に馬は後肢を馬体に下へ向かってステップしてバックアップするようになり、このことによって馬は頭を下げるようになるのである。

 そして更に、後肢に踏み込みを深くさせるために、レインをサドルホーンの前で上方へピックアップして馬の頭を上げるようにすれば、馬は頭頂を曲げて屈撓し、且つ顎を持ち上げられるようになり、このことによって後肢はより深く踏み込むようになるのである。

 ここで注意することは、あくまでもリブケージの柔軟性と後肢の可動域を大きくすることが目的であることを忘れてはならないことで、後肢にステップやビットプレッシャーに対する馬の反応が、よりソフトになるまでこれを繰り返すことであり、そのために馬のメンタルが、リラックスを維持してることや、ビットや脚に対する馬の反応が柔らかくなっているのかどうかに注意を傾けることが必要なのである。

 

 以上のようなエクササイズの後、フェンシングや実際にスライディングストップを馬に求めるとき、頭頂からショルダーまでを真っ直ぐに保ち、外方後肢が外方の前肢よりやや内方に位置しながら走行するようにし、もしストップを失敗したり向上しなかったりしたときは、先ず馬の後肢にステップインを求めるようにしたりリブケージの柔軟性を求めたりして、矯正するようにする。

 スライディングストップは、フィジカル的にもメンタル的にもハードな運動なので、テクニカルムーブメントでのランダウンが必須条件であり、後肢の着地位置が重心の前方であることが必須条件だと考えるべきなのである。
 この必須要件を具備するように準備運動をすることが肝要であり、失敗したり向上しなかったりするときに、メンタルだけに訴えかけてこれを矯正するようにすれば、馬は益々ナーバスになるだけで故障の元になりかねない。
 このとき、リブケージの柔軟性や後肢の可動域を大きくするようにして、テクニカルムーブメントを如何に維持して、ランダウンするかに要点を於いてこれに臨まなければならないのである。




           2013年 9月 24日

           著者 土岐田 勘次郎


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