Horseman's Column title

    VOL.4 「コントロールのファンデーション」

 今月のテーマは、
「馬のコントロールについて考える」です。



 初心者であっても上級者であっても、馬に乗った場合は馬のフィジカルをコントロールしなければならない。

 フィジカルのコントロールとは、馬の運動をコントロールすることであり、運動とは重心移動のことだから、馬の頭の位置やネックやショルダーやヒップなどをコントロールしたり、屈撓させたり収縮させたりするのも要は、馬の重心移動をコントロールするためにある。

 多くの人が馬をコントロールするときに罠にはまりやすいのが、馬のフィジカルのパーツ、つまり頭やショルダーや前肢や後肢やヒップなどをどうにか作用させようという余りに、重心移動のベクトルをコントロールすることを見失ってしまうということだ。

 重心移動のコントロールができることによって、馬を思うところへと誘導することができるのであって、パーツをコントロールすることが重心移動のコントロールへと繋がることが重要なのである。

 重心とは質量の中間点を指す。

 馬の重心は、現在では第12肋骨付近にあるといわれており、更にライダーが騎乗した状態では、ライダーと馬を合わせた質量の中間点が新たな重心となる。

 ライダーがバランスを崩してポジションがぐらついたりすれば、その度に人馬それぞれの重心同士の間隔が変化するので、人馬で作った重心が動いてしまい、馬はその度に影響を受けて運動しにくくなる。その逆にライダーが馬の運動と一体になってバランスがぶれることなければ、ライダーと馬とで作られている重心が動くことが少なく、馬は運動しやすいということになる。

 例えば、自転車の二人乗りで、後ろに乗っている人が自転車に乗れる人とそうでない人との場合を考えるとよく分かる。
 自転車に二人乗りした場合の重心は、二人の人と自転車の質量の中間点に作られる。
自転車を走らせた場合、その自転車の重心移動に会わせて運転している人は、自分のバランスを取る。
 後ろに乗っている人が自転車に乗れる場合は、やはり自転車の重心移動に会わせて自分のバランスを取るから、最初に作られた二人の人と自転車の質量に中間点の重心が、余り動くことはないから自転車はスムースに動くことができる。
 しかし、後ろに乗っている人が自転車に乗れない場合は、自転車が走って重心移動が始まっても一緒にバランスを取ることができないから、二人と自転車とで作っている重心が絶えず動いてしまうので、自転車のハンドルを握っている人は、自転車をコントロールしにくいことになってしまう。

 物が動くということは、重心が動くということだ。

 物が止まっている状態は、その重心の均衡が取れている。つまりバランスが取れているということで、質量の中間点(重心)からその物を支える支点が遠ければ遠いほど安定する。つまり動きにくく移動しにくいということだ。
 またその逆に、物が動くということは重心が移動するということでありバランスが崩れるということで、つまり安定とは真逆で、物を支える支点が重心から近ければ近いほど、移動しやすいということでバランスが崩れやすいということだ。

 馬の収縮とは、4本の脚をなるべく馬の重心近くへ持ってくるということで、重心移動し易くするためにあり、このことがバランスを崩しやすくしているということで、馬の運動をし易くしており逆に安定感が悪くなっているといえることだ。

 以上の認識を持って、馬をコントロールすることに言及する。

 馬をコントロールすることは、馬の重心移動をコントロールすることであり、馬はその重心移動を首の運動が多くの役割を担っている。
 馬が歩いたり走ったりしているときに、首を縦に振りながら運動しているように見えるのは、人間が走るときに腕を振るのと同じで馬は首を振り子のように振ることによって、重心運動を促進している。

 従って、馬の首を自由にして運動すると、肢の筋肉運動の負担を軽減でき、首を固定して運動すれば肢の筋肉運動の割合を大きくする。

 そして重心移動をコントロールするということは、馬のステップをコントロールすることにあり、馬のステップは、重心移動が起きてからステップする場合と、ステップをしてから重心移動が起きる場合との2つがあると考えられる。

 前者の場合は、首や肩などを使って馬の重心のバランスを進行方向へと倒して、そのアンバランスを支えるためにステップしている。つまり、その重心移動を支えるためにステップをする。

 後者は、脚の筋肉運動によってステップして、ステップしていない方の脚に負重している負荷を、筋肉運動によってステップしている肢へ移動する。

 前者は、筋肉負担が少ないので長時間の運動に耐えられ疲労が少ない。一方後者は、筋肉の負担が大きく疲労し易いという特徴を持つ。
 この二つの運動を馬は、厳密に分けて行っているわけではなくて、その時々によってどちらかの割合を大きくして運動していると考えられる。

 例えば、ウエスタンにおけるカッティングは、ルーズレインで首の運動を自由にして牛の素早い動きに対応しているが、その割に筋肉運動を軽減しているので疲労が少ない。重心移動をしてからステップを行っている典型的な例だ。

 一方ドレッサージュは、素早い運動は少ないにも関わらず屈撓状態を維持するために首を固定して運動しているので、肢の筋肉運動を活発に使っているので、発汗も速く馬は疲労し易い。これも典型的なステップによって重心移動を行っている例だといえる。
 
我々ライダーは、この2種類の馬の運動を知って馬のコントロールをすることによって、運動の効率を意識した運動をすることができる。

 馬は、重心が第12肋骨にあることは既に触れたが、馬によってその重心が後肢寄りであったり前肢寄りであったり、頭の位置が高かったり低かったりと(首付の高低)カンファメイション(Conformation)によってバランスが様々で、運動する場合において屈撓や収縮が必要であったり、頭の位置が高いままの方がよりスムースな運動ができやすい場合がある。

 このカンファメイションによって、サークル運動やストップやスピンなどの時のスタイルを決める必要がある。

 スタイルとは、簡単に言ってしまえば頭を下げたまま運動するのか上げたままするのかである。またサークル運動では、内方姿勢が必要かそうでないのかなどである。

 ライダーが馬をコントロールするうえで、共通して求めることは前肢寄りにある重心をより後肢へ負重するよう、重心の下へ後肢を運んだり、頭を高揚させたりして重心を後肢よりへ移動する。

 乗馬において重心を後肢へと移行するのは、前肢での方向の変換をし易くするという意味を持ち、また停止する場合においても間接の機能上、後肢へと負重して前肢への負重を軽減していることで故障のリスクを軽減できる。

 馬の背中で馬のフィジカルをコントロールすることが乗馬であり、馬のフィジカルをコントロールするとは馬の重心をコントロールすることなのだ。

 ライダーは、馬の重心を如何にコントロールするかという命題をもって、乗馬をしなければならない。

          
 2010年7月7日
           
著者 土岐田 勘次郎


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