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    VOL.28 「ポジショニング Positioning」



                                                 

 2012年8月号


 今月のテーマは、ポジショニングです。


 ポジショニングとは、シートポジションともいい、ライダーが何処に座るかということであり、何処に座るかというのは、実際上の馬の背中のどの位置に座るかという意味で解説しているものを多く見かけるが、ここで取り上げるのは、位置の問題と同義語で捉えるのはなくて、バランスや重心という意味での考察を、解説したいのです。

 馬のムーブメントには、メカニカルムーブメントとテクニカルムーブメントの二つがあり、メカニカルムーブメントは、重心のアンバランスを作り、これを安定させるためにステップするのを繰り返すムーブメントで、テクニカルムーブメントは、ステップをして、その後に重心をそのステップした肢へと移動するムーブメントで、駆動する肢(後肢の着地位置と重心の位置との関係性によって、どちらのムーブメントの割合が大きく占める運動になるかが決まるのである。

 そこで、馬は自然の態勢では前肢:後肢 6:4の割合で体重が負重しており、運動をするとき後肢の着地位置が重心の真下より後ろであれば、メカニカル運動の割合が大きくなり、重心より前に着地すればテクニカル運動の割合が大きくなるのである。

 ライダーのポジショニングは、重心の位置に対して大きく影響を与えることができるので、後肢の着地位置より後ろに重心をもっていくようにポジショニングすれば、テクニカルムーブメントの割合を大きくでき、前にもっていくようにすれば、メカニカルムーブメントの割合を大きくするのである。

 そして、メカニカルムーブメントは、重心移動を、バランスを崩すことによって起こすので、筋肉運動をより軽減した運動で消耗が少ない変わりに、運動そのものをコントロールしにくい特徴を持ち、テクニカルムーブメントは、重心移動を筋肉運動によって起こすので、消耗がより大きいが運動をコントロールしやすい特徴をもつのである。

 さて、レイニングの運動に目を向けてみると、スピン・スライディングストップ・ロールバック、リードチェンジ・サークル運動におけるスピードコントロール、これらの運動を殆どが、メカニカルムーブメントの割合を多くして行わなければできない運動である。

 スピンターンは、後肢への重心の負重の割合が大きくなれなるほど、同心円運動になりやすく前肢の運動を軽快にする。







 スライディングストップは、重心が後肢へ負重していることが望ましく、もし前肢への負重が大きければ、前肢の故障ばかりかスライディングそのものができなくなってしまうのである。

 リードチェンジは、駆動方向の切り替えなので、後肢への重心の負重が大きければこれを容易にし、前肢への負重が大きければできにくいということがいえるのである。

 サークル運動によるスピードコントロールは、サークル運動だけであれば、メカニカル運動の方が、都合が良いが、スピードの緩慢をライダーの指示に従ってスムースに行わなければならないので、予め後肢へ重心を負重したムーブメントで行っていれば、重心移動を筋肉力で抑制しやすいのでテクニカルムーブメントを要求されるのである。

 以上のことを見れば、如何にテクニカルムーブメントを馬に要求して、馬自身がこれを容易にできるように訓練しておくことが必要であることが分かる。

 そこで、馬にテクニカルムーブメントを要求するには、ライダーのポジショニングが重要なファクターとなるということなのである。そして、ライダーのポジショニングとは、鐙に対する体重の負重をなるべく軽減してシートにより負重し、且つ上体の態勢を工夫して、ライダーと馬とで作る重心を、後肢の着地位置の後方へ位置させるようにすることを指すのである。

 重心を後肢の着地位置より後方へ位置させるには、二つのことを同時に行うわけであるが、その一つは、ライダーが自らの態勢をもってより後方へ自分の体重を位置させるようにシートすることと、もう一つは、後肢をより前方へ踏み込むように推進することである。

 ポジショニングも推進も、その目的は、後肢の着地位置を重心より前方へ、または、重心を後肢の着地位置より後方へ位置するようにするということにおいて、一つの共通事項なのである。

 ライダーが行っている脚による推進とレインによる抑制の指示は、飽くまでも馬に対して合図であり、物理的作用をするものではないが、ポジショニングによる重心の位置の変化や加重は、唯一物理的作用をもっているのであり、馬の運動に影響をダイレクトに与えることができる唯一の方法なのである。

 基本的に乗馬とは、馬の運動をコントロールすることにあり、運動のコントロールとは重心移動のコントロールであり、重心のムーブメントのコントロールだと極論すれば、これに一番大きな影響力を与えることができるのが、ライダーのポジショニングなのである。

 ライダーが馬に与える指示の仕方に、キューイング(Cueing合図)とエイド(Aid 扶助)という二つがあって、ポジショニングが、ライダーが馬をコントロールするための唯一扶助といえるツールだということができるのである。






                 2012年7月17日

                 著者 土岐田 勘次郎


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