Horseman's Column title

    VOL.115「ライダーの重心」

 2019年11月号

 今月のテーマは、ライダーの重心についてです。

 先月乗馬における重心をテーマにして記事を書きました。
 馬の重心は、第4肋骨付近にあります。そして、馬の首から頭にかけての部位(頭頸部)の重量は馬体重全体の20%〜30%を占めていて、人間が走るとき腕を振るように、この20%〜30%の重量をもってこれを振り馬の重心に影響を与えて、馬は動いています。

 馬体重が500kgあるとすると、馬の頭頸部の重量は20%〜30%なので100kg〜150kgになります。そして、ライダーの体重は50kg〜80kgだと仮定すると100kg〜150kg+50kg〜80kg=150kg〜230kgになり、馬の頭頸部とライダーの重量の合計は、馬体重の30%〜46%となり、馬の運動における頭頸部の影響力に対してライダーの体重をプラス要因に活用すれば、20%〜30%だったものが30%〜46%に増幅するのです。
 その逆に、100kg〜150kg−50kg〜80kg=50kg〜70kgで馬体重の10%〜14%のとなり、馬の運動における頭頸部の影響力に対してライダーの体重をマイナス要因として活用すれば、頭頸部の影響力を減退することができるのです。

 実際上は、このような単純な計算ではありませんが、理論上は、ライダーの体重がこのように馬の運動に大きな影響力を持っているということなのです。
 勿論、馬の頭頸部自体を変化(伸展や屈撓など)させることによって、馬の運動に対してプラス要因やマイナス要因として活用することができるのですが、その影響力を、ライダーの体重を活用することによってこのような数字が示すように、ライダーが認識している以上に大きな影響力を持つのです。

 ライダーが強制力を駆使して馬を直接的に動かすことができませんが、唯一ライダーが持っている強制力は、ライダー自身の体重なのです。



 ライダーは、体重をシートとスティラップに負重しています。ドレッサージュのライダーの基本姿勢では、ライダーの上体の線の延長線上にスティラップを踏むようにいわれているので、ライダーの体重は、シートに掛けてもスティラップに掛けても重心の位置には変わりはありません。
 しかし、ドレッサージュの基本姿勢がとれずにスティラップを上体の前で踏んでしまう人は、シートにより多く体重を掛けるかスティラップに掛けるかでは、重心の位置が前後します。
 ライダーの重心が前になれば、馬の頭頸部の働きに対してプラス要因となり、馬の運動を促進し、後ろになれば、馬の頭頸部の働きに対してマイナス要因となり、馬の運動を減退することになるのです。


 ライダーの重心の位置を左右する主要要因は、上体の姿勢にあります。つまり、サドルのシートの接触点とライダーの頭の位置や肩から腰に掛けての垂直線の位置関係で左右するのです。
 頭の位置は、肩から腰に掛けての垂直線上にあると仮定すると、この垂直線が、サドルとシートの接触点に対して、その中心または前後に位置する場合、馬の頭頸部の働きに対して、それぞれ促進・同位・減退などの要因になるのです。
 更にまた、ライダーがスティラップに体重の何割かを負重し、そのスティラップを上体の前で踏めば、その分重心を前にすることができ、馬の運動を促進し、上体より後ろで踏めば、その分重心を後ろにすることができ、馬の運動を減退することになるのです。



 馬は自然体では、前肢に60%強、後肢に40%弱の体重配分で立っています。つまり、重心が第4肋骨付近にあるので重心が前寄り(バランスフォーワード)にあるということです。
 このバランスフォーワードは、直進性に優れていて曲進性は劣っているといえるのです。何故なら、前肢に負重している割合が大きいので、前肢で推進力を曲げることが容易ではないからです。従って、直進性を多用する競走馬には向いているのですが、馬術全般にいえるように、馬術は曲進を多用するので、バランスバックをして前肢に負重する割合を軽減して、前肢による推進力の曲折を容易にしているのです。

 従って、馬は、トレーニングしなくてもバランスフォーワードになるのですが、バランスバックはトレーニングすることが必要なのです。バランスバックのトレーシングの進捗は、馬の能力の高低の分かれるところでもあるのです。

 そこで、バランスバックを馬に強いるときに、ライダーがどのようなポジショニング(姿勢)をとるかが重要なファクターになるのです。

 それは、ものが動くということはそのものの重心が移動することです。馬が動くこともまた馬の重心が移動することなのです。
 そこで、頭頸部を上下左右に振ることによって、馬体重の20%〜30%の重量を以て重心の移動を促しており、その重心のコントロールにおいて、ライダーのポジショニングは大きな影響をものなのです。
 何故なら、ライダーの姿勢によって、馬の頭頸部の20%〜30%の影響力を最大30%〜46%にするか、最低10%〜14%するかが決まるからです。

 つまり、ライダーは、バランスフォーワードにすべきかバックにすべきかを、馬のフレームに思いを馳せるばかりでなく、自らのポジショニングと馬のフレームを一緒に考慮して、コントロールしなければならないのです。

2019年10月18日
著者 土岐田 勘次郎

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