Horseman's Column title

Vol.22 Back Up & Roll Back (バックアップとロールバック)

 今年も早いもので、師走を迎えました。
馬の年齢を数えて過ごしていますと、いつの間に正月を迎えたかと思うと、あっという間に師走になります。
 「青年老い易く、学成りがたし。」とは、よく言ったもので、全く月日の経つのは早いものです。しかし、我ながら成長は遅々として、なかなか進まないものです。


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 今回のお話は、ロールバックとバックアップです。

 カウボーイにとって、牛の動きに応じて馬が、この2つの運動を瞬時に行うことができることは、単にカウボーイの仕事が果たせるかどうかということばかりでなく、カウボーイ自身の進退を瞬時に可能にして、安全性を大いに守っている大切な能力なのです。

 我々人間は、動物に頼って仕事してきたことを機械化して、その利便性や安全性を高めています。しかしカウボーイの仕事に関しては、進退を牛の動きに対応して、瞬時に反応することは、欠かすことのできない重要なファクターです。このことにおいて人間は未だに、馬以上に機能する機械を発明できていないのです。

 以上のような観点で、ロールバックとバックアップを捉えてみることも、このことを深く理解する上で、重要なことではないでしょうか。

 バックアップについてあれこれと考えて、馬に乗っていたりトレーニングしたりしている人は少ないのではないでしょうか。単に私が、少ないと思っているだけかも知れませんが、もし沢山の人が考えているとしたら申し訳ありません。

 私は、大分以前からバックアップについて、アメリカのレイニングホースと日本との間に、最もクォリティの差があると思っていました。それは、バックアップしている時の後肢の位置が違うという点です。

 後肢の位置が違うとは、アメリカの馬は、バックアップしている時の後肢の往復運動において、馬のお尻(臀部)の突端が起点(最後部)になり、そこから馬体の重心部に向かって(お尻から前の方へという意味です。)運歩している。
一方日本の馬は、臀部の突端が往復運動の最先端(最前部)となって後肢が(お尻から後ろの方へという意味です。)運歩をしています。つまり後肢の踏み込みに、違いがあるということです。

 馬の重心が第4肋骨付近にあることは、衆知のことと思います。
その重心が動くことが、馬が動くということで、馬が4肢で立って静止している時は、その重心が4肢それぞれに、配分(前肢:後肢=6:4)、負重して、バランスを取っています。 そのバランスが崩れると、馬は、バランスを取ろうとして肢を動かします。

例えば馬が常歩で前進する時、馬の頭が右上に上がり右前に動くことによって、バランスが崩れて、右後肢を前に出して、次ぎに右前肢を前に出す。そして次ぎに馬の頭が左上に上がって、左前に出る。このことによって馬は、左後肢を前に出して、次ぎに左前肢を前に出す。こうして、馬が首を上下することによってバランスを崩して、そのバランスを取るために肢を動かし、また首を上下させてバランスを崩す、そしてまたバランスを取るために肢を動かす。これを繰り返して、馬は動いているのです。

 バックアップの時は、バランスの崩れ方として2つの循環的ケースが考えられます。

一つは、左右どちらかの後肢を踏み込むことによってバランスを崩し、反対側の後肢を後ろに送ってバランスを取る。そしてその肢を前に、踏み込むことによってバランスを崩し、反対側の後肢を後ろに送りバランスを取る。この繰り返しをしている。
この場合は、バランスを崩すのも取るのも、後肢の動きによって行っています。

 もう一つは、馬の頭を左右どちらかに上げることによって行います。
この場合は、馬の頭が左右どちらかの上に、あがることによってバランスを崩し、同じ側の後肢を後ろに送ることによって、バランスを取り、そしてまた反対側の上に馬の頭を上げてバランスを崩すと、同じ側の後肢を後ろに送ってバランスを取る。これを繰り返してバックアップする。
重ねていいますと、この場合は、首の上下動によってバランスを崩し、後肢の運歩によってバランスを取っています。

 馬の頭を上げ下げすることによって、バランスを崩す場合のバックアップは、停止している時の後肢の位置を起点(往復運動の最先端点)として、その起点より後肢を後ろに、送る往復運動によって行います。

もう一方の後肢を前に踏み込ませることによって、バランスを崩す場合のバックアップは、停止している時の後肢の位置を起点(往復運動の最後端点)として、その起点より後肢を前に、踏み出す往復運動によって行います。結果的に、臀部の突端部が起点となって、これより馬体の下で後肢が往復運動をします。

 この2つのケースは、静止している時の後肢の位置が起点になることは共通で、その起点が後肢の往復運動の最先端になるのか、最後端になるのかの違いがあります。この違いは、静止の時の後肢の位置が最先端になる場合は、後肢が後ろに下がった時に、バランスが取れて、最後端になる場合は、後肢が前に踏み込んだ時に、バランスが崩れるということです。

 
 ロールバックとは、停止の直後に180°回転して、駈歩発進することです。

 この場合、回転運動をするにしても駈歩発進するにしても、後肢に重心がかかっていることが要求されます。この時、もし前肢へ重心がより多くかかっているとしたら、馬は回転運動がしづらくなるし、駈歩発進もまた同様です。
 何故ならば、もし前肢に重心が負重していると、前肢によって回転して方向の変換を行っているのでしづらくなりますし、駈歩発進も停止位置からその場で発進しなくてはなりませんので、サージャントジャンプと同じで、一旦しゃがんでジャンプするようにウエイトを一旦下げて、反動でジャンプするように、一旦後肢へ負重して発進する反動が必要となりますから、前肢に体重が負重したままだと発進しにくいということなのです。

 余談になるかも知れませんが、スライディングストップは、このロールバックによって生まれたものなのです。
つまり牛が急転回して、逃走しようとするのを追いかけようとすれば、馬は急停止して回転し駈歩発進をして、牛を追いかけなくてはなりません。その時、重心を始めから後肢へかけ急停止して、回転と発進に備えなければ、牛の逃走を許してしまいます。
このことによって馬は、急停止を後肢へ負重して行うようになって、スライディングストップが生まれたのです。
 このような経緯からルールブックに、ロールバックが伴う時、スライディングストップとでなくて、ロールバックとしか記されていないのです。

 バックアップをロールバックとの関連性で考察すると、馬の頭の上下運動によってバランスを崩すことを主体としたバックアップは、後肢の往復運動の最先端としての起点が、停止している時の後肢の位置(前肢:後肢 6:4)になり、往復運動することによって、馬の重心は、前肢と後肢を行ったり来たりすることになり、特に後肢が臀部の突端より後ろへ踏み出した時は、前肢への負重割合が大きくなって、回転や発進がしづらいといえます。

 一方後肢を前へ踏み込ませることによってバランスを崩す場合は、絶えず左右どちらかの後肢へ体重を負重しており、何時でも回転や発進できる状態にあるといえます。

 馬の回転運動は、馬の重心の負重バランスをコントロールすることによって、容易になります。
単に、馬の4肢の運歩を、コントロールするだけを考えるのではなくて、その時の頭の位置との関連性を考えて、コントロールすればより容易になります。何故容易になるかといえば、馬のバランスをコントロールしているからなのです。

 特に馬に乗っている時、前進運動しているのが80%以上を占めるので、バランスのコントロールということを意識することが少ないかも知れませんが、特に回転や発進やストップなどの運動の移行においては、馬の重心がどのように4肢に対して、負重することが望ましいのかを考えて行うことによって、よりスムースなパフォーマンスをすることにつながるのです。

 馬がどのようなメカニズムで運動しているかといえば、「筋肉運動」と「バランスを崩しそして取り戻すことを繰り返すメカニカルな運動」とを、織り交ぜて行っているのです。
 馬の重心バランスをコントロールするために、馬の頭の位置やフレームや4肢の位置関係などにも気を配ることによって、4肢の運歩をヘルプして、馬をコントロールするようにするになり、よりスムースな運動を作り出せようになるのです。

 馬に対して指示命令する時に扶助するといいますが、この扶助という言葉には助けるという意味があります。英語では、Aid(エイド)といいます。もう一つの言い方として、合図という言葉があり、英語ではCue(キュー)またはCueing(キューイング)といいます。

 馬をコントロールする時に、4肢の運歩を直接的に指示するのは合図(Cueing)で、馬のバランスを考えて、馬の頭や4肢の位置関係を意図して指示すれば扶助(Aid)、というように分けて理解することができるかも知れません。
実際には、これをコンビネーションして、より有効に行うことが重要ではないかと思います。

馬のバランスを考えて、運動の移行を行うのは、バックアップやロールバックに限ったことではなく、前進運動でも、全ての運動においてといいますか、全ての馬のコントロールにおいてといった方が良いかもしれませんが、直接的に4肢の動きを指示するばかりではなくて、その時の馬のバランスをどのようにすれば、よりスムースな4肢の運歩につながり、結果的にスム−スな馬のコントロールを実現できるのかを考えていく必要があるのではないでしょうか。



  2008年10月29日
   著者 土岐田 勘次郎

                


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